今週土曜の映画鑑賞

懐かしの名画鑑賞リヴァイヴァル「野良犬」黒澤明監督、1949年度作品

これは11年度にお観せしたのですが、もう皆さん忘れた(笑)とか、観てないなんて声が上がり、モッセン館主の解説に興味が湧き、是非観たいというご要望に答えます!ちなみにワタクシ、筆者が子どもの頃に観ていて、野球場の内部の暗いところから観客席を通して、明るい試合場を望む、というシーンだけ、大人になって、ときどき思い出されてアレはいったいなんだったのだろうか、と映画のシーンであるかどうかもわからずに居たのですが、この映画を観たときに一気に謎が解消しました。コレ、この映画の一シーンだったのです。

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あらすじ:

射撃練習を終えた村上刑事(三船敏郎)はコルト式けん銃に弾を装てんして無雑作に私腹の上着のポケットにねぢこんだ。彼は連日の活躍に大分疲労を感じながらバスに乗り帰途についたが、途中のバスの中で一大事が起った。それは彼のピストルが盗まれたのである。ポケットに手をやった時はすでに遅く、周囲の怪しい奴が降りたのですかさず後を追ったが残念ながら姿を見失ってしまった。真夏の午下がりの出来事であった。彼は早速警視庁捜査第一課の中島警部に事情を訴え出たが、そのピストルの中には七発の実弾が入っており、事の重大さに今更ながら若い村上刑事は当惑するのであった。何分の処分がきまるまででも、じっとしているわけにもいかないので、中島係長の暗示でスリ係の老刑事市川に相談する、、、

とまあ、こんな調子でストーリーが始まるわけです。二人の復員兵が共に「盗難」という”人生の試練”にどう立ち向かうか、という命題が映画の根底にあります。1949年といえば戦後わずか4年経っただけです。復興の息吹きが随所に感じられるロケシーンもあります。また、女優、淡路恵子のデビュー作らしいです。若干16歳。ゲッ、知らなかったぞッ!しかし、まだ淡路恵子という芸名ではありませんね。本名の井田綾子で出ています。後で、敬愛する淡島千景の名前から一字貰ったらしいです。恵子は黒沢監督の命名。けれど、大親友である越路吹雪の一字も入ってるじゃないかッ、モッセン館主、いま気がついた!”淡(島)”(越)路” これって出来過ぎじゃない?

そうそう、もう一つ、黒沢監督というのは軍人家庭の育ちで、”女性”が廻りに乏しい環境で育ったので、”女性”の描き方がヘタ、というか”悪女”か”聖女”のどちらかしか描き出せない、カソリックの国々でよく言われるコンプレックスを持っていたと誰かが指摘していますが、正にその通りで、彼自身、承知していたのでしょう、全ての作品でもっぱら男の方だけに視線を当てています。

そして、48年度作品「酔いどれ天使」で魅せた三船敏郎のエネルギーがまたまた、ほとばしります。これで、世界的な彼の名声(MIFUNE)も確立したと思えます。世界の映画界において、二枚目でありながら、これだけの体当たり演技、汚れ演技を見せ得たのは珍しいといえましょう。それは監督次第で、それが黒沢監督の偉大さで、三船自身はアタマの上に誰かがいれば存分に働く役者だったのでしょう。しかし三船自身は面白くない、もう充分に映画というものを知ったし自分は「世界の三船」であるから、と、、、それがもとで、後の二人の決別へと繋がっていくのですが、、、この頃の黒沢作品では、三船の持つ動物的な勘どころ、表情を、魅力を存分に引き出しています。黒沢監督と別れて以降や晩年の三船の演技を観れば一目瞭然で、カッコよさばっかり強調してまるでダメ、急に大根役者に成り下がりました。それは外国の監督作品に出演したときにも顕著に現れます。外国の監督連中が三船という役者にリスペクトし過ぎで、役どころのキャラクター造りが出来なかった結果です。

これも私見ですが、タイトル場面からのイントロに、テンポのよさを観て監督の非凡さを知りました。これがクライマックス場面に通じていて、黒沢作品全般に言えることですが、やはり脚本の練りの確かさが生きています。そんなわけでちょっと、黒沢監督を持上げ過ぎている感がありますが、映画の持つエンターテイナー性を存分に活用した監督だったのではないでしょうか?

モッセン館主

キャスト三船敏郎、志村喬、清水元、永田靖、川村黎吉、木村功

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