小学生の頃の憶い出、その一

の頃、寝る前になると小学生の 頃の憶い出がフッと頭に浮かん でくる。いろいろな出来事の断 片がよみがえってくる。あのころに起き た出来事、出逢いが、そしてあのときに 思った考えがきっとボクの人生に対する 姿勢やら方向性に影響を与たのだと思えてくる。

あれは五年生のときだった。なんでもな い初冬の午前、暖かい日差しが窓から差 し込む二時間目だったか、教員室からの 誰かが入り口のドアをコンコンと叩き、 先生が廊下に呼ばれて消えた。直ぐに戻 って来て、サカイ君に小さい声ですぐに 家に帰るよう告げた。サカイ君はそれか ら数日間学校を欠席した。やがてどこからともなく噂が聞こえてきた。サカイ君のお父さんがス クーターに乗って千葉方面に出勤する途中、トラックに引っ掛けられて亡くなったらしいという 噂だった。

何日かするとサカイ君が教室に戻ってきた。透明人間となって帰ってきたのです。あのころ の幼い自分たち、誰も、何も言えずソッとしておくしかなかった。見て見ぬ振り。それも今思え ば残酷な仕打ちだったと思う。青白い顔をもっと青白くしてサカイ君は自分の椅子に座ったまま 黙って休み時間を過ごしていました。くる日もくる日も。そうして何日かするとボクラの教室か ら別れも無しに消えていきました。事故いらい、とうとう誰とも一言も会話をせず彼は去ってい きました。

しばらくしてまたどこからか噂が流れてきました。あの日、サカイ君のお父さんは忘れ物があっ たので家まで取りに帰ったらしい、忘れ物さえしなければ、あるいは忘れ物を取りに帰らなけれ ば、時間的にみて、サカイ君のお父さんと加害者のトラックとは国道で出会うことがなかっただ ろうにと、葬式のときにサカイ君のお母さんが取り乱して叫んでいたという噂でした。 ボクはそれを聞くなり憮然としました。だって、なるように成る、一寸先の事は誰にもわから ないのだものと思ったからでした。まあ、そうは思ってみたものの、我々人間が生きていくとい うことは、なんと繊細でいろいろな偶然偶発が周りを取り巻いているのか、と思えてきて子供心 にもチョッピリ怖く、憂鬱になったものでした。

いま、蒲団の中で、暗闇の中で思うのです。教室に戻ってきてから、サカイ君自身は何を考えて いたのだろうかと。級友が誰も近づいてこない教室の中で「お父さんが忘れ物さえ取りに帰らな ければ、、、」そんな風にずっと考えていたのでしょうか?そんな、、、

サカイ君の青白い頬が少し痩けて影が差しているのを、遠目で視ていた自分を憶いだします。

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